『原稿用紙10枚を書く力』(齋藤孝 大和書房)


マニュアル本だと思って侮ることなかれ。齋藤孝だと思って侮ることなかれ。メディア露出が激しいと言うだけで嫌う人もいそうだけど実際中身を読んだらマニュアル本ではないことは一目瞭然だし、メディア露出の激しさと言った瑣末なことは気にならなくなる。この人の言うことにはいちいち納得させられる。氏曰く読み手にとって「おもしろいとは、それまで頭の中でつながっていなかったものがつながる」ことであり、読み手に「そういう刺激を与えるラインをつくるのが、文章を書くことの醍醐味の一つ」であるらしい。



こうしたひとつひとつの言葉がボクの暗黙知*1を刺激する。第1章3節の[価値を下げる文章は書かない]ではネット上のどうでもいい誹謗中傷を批判し、「書くという行為は、そのまま放っておけばエントロピー(無秩序状態)が増大していき、ますます退屈で無意味な世界になる日常の中に、意味という構築物を打ち立てていく作業なのだ。」と述べている。



また価値のあるものを低くを貶(おとし)める批評が多い今の状況などにも触れている。こうした主張はボクが受験時に多く読んできた現代文の評論の中にも出てきたものであり、まただからこそ暗黙知が刺激されると先述したのだ。



おそらく氏は今まで膨大な文章を読んできて、その読んだ内容をしっかりと自分の内に吸収できたからこそ今あれだけの執筆をこなすことができているのだろう。この本は(自分にとっては)ほんじょそこらに転がっているマニュアル本などではなく、むしろ啓蒙書に近いと言える。

*1:「意識化できてはいないが、自分の体験の中で培われていた知恵」